連載 No.8 2015年7月12日掲載

 

見直したいシルバープリントの魅力


 画像の「入口」であるカメラにデジタルとフィルムの違いがあるように、

「出口」に相当するプリントにもいくつかのスタイルがある。

 私はゼラチンシルバープリント(シルバープリント)を専門に手掛けているのだが、

れは絵画でいえば、キャンパスに油彩とか、水彩、アクリル絵の具とかの技法(素材)のようなものだ。



 特に写真に関心をもっていなければ、一般的な印刷物と写真の区別はつきにくく、さらに技法となるとなじみが薄い。

ハンドクラフト的な和紙や、表面に特徴のある特殊紙にプリントされていると、

作家のこだわりが見える特殊な技法で、芸術的と思われがちだが、

陶芸と同じで、手作り風なものが必ず芸術的というわけでもない。



 それぞれの技法には最適化された表現があり、優れた作品にはその素材をはっきりと表す特徴がある。

銀やプラチナなどの金属なのか、染料や顔料などのインクなのか。

そしてその画像は化学的に生成するのか、物理的に転写するのか。

もちろん複合的に組み合わせて制作される作品もある。

そしてベースとなる紙。これもそれぞれの技法的に最適なものが選ばれる。



シルバープリントは、最近は少なくなったが、一般的に暗室で行われていた印画紙現像のことだ。

画像は金属の銀で形成され、ベースになる紙は白の反射率が高く、白から黒への幅広い表現領域を持つ。

 そして最も大きな特徴は、鑑賞するときの光線状態で画像のコントラストが変化することだ。

強い光が当たると、黒は黒くなり、白は輝きを増す。

専門的な表現になるが、印画紙をより白く見せる為の下塗り層(バライタ)と、

乳剤中の銀のフィラメント(繊条)構造によるものと思われる。



シルバープリントを扱うギャラリーでは、スポットライトを使うことが多いが、

美しく仕上げられたシルバープリントは、階調が増幅され、ひときわ強い印象を見る者に与える。

 これとは逆に、プラチナを用いたプリントやフォトグラビュール(写真製版を用いた版画)などは、

柔らかな光線で見た方が、優しく複雑な階調が見えてくる。

 素材が違えば、それぞれに得意なモチーフがあり、個人的な見解になるが、光を強く感じる被写体ならシルバー、

特定の濃度域に階調が凝縮される柔らかいヌードなどはプラチナの方が好きだ。



 シルバープリントは比較的手軽に楽しめる。私が中学生時代、自宅の暗室で初めて体験したのもこの技法だった。

現在はインクジェットのデジタルプリントが主流だが、シルバープリントの魅力を見直してほしいと願っている。

 今回のイメージは、1980年に千葉県浦安市の埋め立て地で撮影したもの。

3年後、ここに東京ディズニーランドが開園した。強い太陽の反射で滑らかな泥の表面がまぶしく輝いている。